中学三年生のときの学校行事の芸術鑑賞会で初めて演劇というものを観た。ひとまえで怒ったり泣いたりする役者たちを観てるだけで、とてつもなく眠くなった。
高校生になった尚太郎はサッカーに夢中になり長野県選抜チームのメンバーに選ばれるほどの実力をつけたが、バイク事故を起こし右足を骨折した。
当然選抜メンバーからは外され、その上、学校で禁止されていたバイク免許を取得していたことが発覚し、無期停学を言い渡され父親の信頼を失った。
尚太郎を救ってくれたのは明るい母親と一学年先輩の武雄さんだった。
「よお、東京に行かないか」
「東京ですか?」
「気晴らし、気晴らし」。武雄は尚太郎の良き理解者だった。
ある時、武雄が言った。
「おまえ童貞なんだろ」
東京にいる知り合いの女が相手をしてくれるぞ、と囁いた。
令和2年5月8日