16.さよなら父さん 13話

 上田では共同玄関のアパートは田舎には馴染みはなかった。

                   

 初体験だ。尚太郎は靴を脱ぎ木造の階段に足を乗せて体重をかけた。

一段踏みしめるごとにギシッと音が鳴った。

段数を数えると十三段、イヤな数字だなと思った。

 二階に上がるとドンと真ん中に廊下があり、右側に三つ左側に二つの扉が見えた。突き当たりには共同洗面所とその左脇に共同便所があった。共同洗面所の窓からの日差しが廊下を照らしていたが朝の太陽が入るだけで午後になると暗くなることは想像ができた。

     

                  

得体の知れない建物に入ってしまった・・・。

                         

武雄さんはなんつう所に住んでるんだよ・・・

                    

 尚太郎は憂鬱になった。

                           

 廊下に突然、女の奇声が響いた。

                       

うわっと振り返ると右側の部屋の引き戸扉がガラガラーと開くと下着姿の女が

「寝坊しちゃった、まずいよまずいよ」

と叫びながら共同洗面所で顔を洗い出した。

                         

続いて別の部屋の引き戸扉からパジャマ姿の女の子が現れ、洗面所の女に

「おはよー」

と挨拶をして共同便所の扉を叩き

「あーん、入ってるー」

と泣きそうな声をあげたと同時に便所の扉がダンと開き、太ももを露わにした大きなTシャツ姿の女が現れた。そしてパジャマの女は便所に駆けこんだ。

                      

突然の三人の女たちの出現に尚太郎の心臓と脳内はいっきに舞い上がった。

                       

【つづく】

令和2年5月16日