便所から出て手を洗っていた女が尚太郎を見て
「あ・・・」となった。
「やだー尚太郎くんじゃん」
尚太郎を見て明るく笑った女は奈緒美だった。
一年前、原宿で待ち合わせをして、尚太郎に夢を与えるきっかけとなった舞台へと連れていってくれた奈緒美が懐かしそうに駆け寄ってきて、

「どうしたの? あ、春休みで遊びにきたんだ。ちょっと待ってて」。
そう言って武雄の「203」の扉をノックし始めた。
家出をしてきたとは言えなかった。
奈緒美は203の扉を何度も叩いた。
「武雄くーん、起きてるー? 起きてー尚太郎くんが遊びに来たわよー」。
ノックをするたびにシミーズ越しに奈緒美の胸が上下に揺れ、
尚太郎は静かに興奮していた。
これが都会だ・・・
東京だ・・・。
そして(武雄さん、ずーっと寝ててください)と願った。

令和2年5月18日