翌朝。
尚太郎は寝苦しくて目が覚めた。
ひと組の煎餅布団に尚太郎と武雄と奥平で寝たのだが隣で眠ってる奥平の左足が尚太郎の腰に覆いかぶさっていたのだ。
尚太郎は奥平を起こさないように奥平の足を静かに持ち上げて自分の体から離したとき、奥平は「ンン…」とかすかに目を開けて
「ごめんな…ありがとのぅ」
と言って尚太郎の頬にチュッと
キスをした。
え? なになに? なんなの?
奥平は鼾をかいて眠っていた。
令和2年5月20日
「伊賀の花嫁 その四」の初日を終えた涼風せいらは楽しい仲間と楽しいお客さんと楽しい舞台に心が浮かれていた。
観劇をした友人が言ったひと言、
「あんたの主役の舞台が観たい」、が頭から離れない。
そのとき、彼女(?)の脳裏に涼風せいらが芸能界に飛びこんだ過去がジワリジワリと蘇ってきた。
それは忘れられない過去と青春。
物語は少年、尚太郎の時代に遡る。
その少年は青年となり、愛する母親との死別をきっかけに家出をした。
目指すは武雄先輩がいる東京だった。
そのアパート「やしろ荘」には個性あふれる住人たちがいた。
尚太郎の刺激的な青春が今、はじまった。