武雄と奥平は朝十時になっても起きてこなかった。

大学生の生活ってそんなものだよ、と洗面所で顔を洗ってる奈緒美が尚太郎に笑いながら教えた。大学に入るまではみんな必死だったんだけど入っちゃうとあんなのばっかりだもん。

「奈緒美さんもですか?」
「うん、似たようなもんかな、フフ」
「奈緒美さんの夢ってなんですか?」
「あ、それ聞いちゃう?」
「ハイ、聞きたいです」
「柴田恭兵の彼女になること」。
奈緒美は嬉しそうにそう言うと
「覚えてる? 原宿の舞台? 恭平、あのときの主役の人。私、あの人と付き合えるなら奴隷でもいいの。だからね、恭兵に近づくために今年の授業から舞台美術の勉強をはじめるんだ」
奴隷という言葉はとてつもなく淫靡で尚太郎の心の底でありとあらゆるスケベを想像させたが、その気持ちを無理矢理に抑えて「舞台美術ってなんですか?」と訊ねた。
「簡単にいうと舞台の設計図かな」
奈緒美は瞳を輝かせながら、そこから一時間ほど話をしたが尚太郎にはチンプンカンプンだった。だが小さな町にいたら知らなかった世界の話に、やはり心が躍り、俺も東京で夢を語りたいなーと、はやる気持ちを抑えるのに必死だった。

令和2年5月21日