美大生の奈緒美には裸体の男のデッサンは慣れたものだが尚太郎は恥ずかしくて仕方がなかった。畳の上に敷かれた絨毯の上で尚太郎は両腕を床につけながら胸を反らし、右足をピンと伸ばし立膝にした左足姿を保ちながらじっとしていた。立膝のおかげで奈緒美に股間こそ見られていないが、とてつもなく恥ずかしいのだ。

スケッチをしながら奈緒美が話しかけてきた。
「課題をね、出さなきゃいけないんだ、男のヌードデッサン。この間、授業でモデルさんを呼んでくれたんだけど、私そのとき行けなかったんだよねーそしたら昨日教授に呼ばれて提出をしないと単位をあげないって脅されて、あ、動かないで、じっとしてて」
「は、はい」
「私、苦手なんだよねー人間を描くの」
「聞いてもいいですか?」
「うん、なに?」
「奈緒美さんはどうして美大に行こうと思ったんですか?」
「プロになりたいって思ったから」。
鉛筆をスッスッとスケチブックに走らせながらサラリと答えた。
「プロ? どういうことですか?」
「銀行員とか公務員とか証券会社とかスチュワーデスとか学校の先生とか、ンーいろんな仕事があるじゃない。でもそうじゃないんだよなー私の人生は。ハデっていうか、賑やかっていうか、ま、OLじゃないなーって。そんなことを考えてたら美大とか藝大に行けば、将来OLやりまーすって言えなくなるし、なんかそういう感じ、フフ」
「それ高校生の時に思ったんですか?」
「そうだよ」
「そんなことを考えて受験勉強とかしてたんですか? 奈緒美さん、頭いいんですね、とてつもなく深いです」
「尚太郎くんもおんなじじゃん、役者になりたいって、それってプロになりたいってことなんでしょー、それとおんなじだよ、あ、だめだめ、動かないよ」
奈緒美ともっともっと話がしてみたかったが、絵を描き終えるまで黙っておこうと思った。すると、そこにサチ子が入ってきて「あ〜私も描きた〜い」と尚太郎の正面に座った。
チンチンが丸見えの位置だった。
異常に恥ずかしくクネクネと体を動かすたびに、動かないでと言われる尚太郎だった。

令和2年6月2日