37.明日はそこにあるはず 6話

 北別府のことを知っている学友たちは彼のことを融通が効かない堅物オトコと笑った。

 彼は群れることを嫌い、自分が掲げた目標を常に打破してきた。そのための努力を惜しまない青年であった。大学に受かったことでサークルだコンパだと浮かれている連中を横目に見ながら、おまえらの将来が楽しみだなとほくそ笑み、努力こそが彼の友情だったのだが、大学三年のときに突如スランプに落ちた。授業についていけなくなったのだ、教授の言ってる言葉の意味が理解できなくなり気がつくと成績が愕然と落ちていた。

 目標に掲げていた大学時代に一発で司法試験合格は夢の夢となり、計画変更を余儀なくされた。

                  

「卒業の年に受かればいいんだ、大丈夫だ、オレはまだまだ大丈夫だ」と己を鼓舞し、卒業後は就職浪人の道を選んだのだが、その年に受けた試験にも落ちた。北別府は再び計画を変更することにした。

               

 焦るな、来年がある。

 この男は努力をする男ではあるが、だが運と実力に見放されていた。試験当日、お腹を壊し試験中に何度も便所に行き、箸にも棒にも引っかかることなく落ちた。あの頃、浮かれた遊びをしていた連中はバブル景気に乗ってほとんどの者たちが上場企業に就職をし、今社会人を謳歌している。

                

 年に一度のゼミの同窓会の誘いのハガキは今年はこなかった。そのことも、他の全てのことに対しても苛立っていた。特に最近の苛立ちは毎晩のように馬鹿騒ぎをする「やしろ荘」の住人たちなのだが、実はどこかで彼ら彼女らの生き方が羨ましかった。

 共同スペースを家族きょうだいのように自由に生きてる彼ら彼女たちの姿が…。

               

 そんなことをフト考えていた頃に尚太郎がバイト先で金を盗まれたという話を耳にした。

                  

【つづく】

令和2年6月6日