38.明日はそこにあるはず 7話

 「尚太郎がバイト先でバイト仲間に殴られて金をがめられたんじゃげな、わしが取り返しに行ってくる」

       

 ある朝、共同洗面所で歯を磨いてると開けっ放しの扉となってる武雄の部屋からその言葉が聞こえてきた。彼の部屋によく遊びにきてる広島弁の男の顔が浮かんだ。確か奥平とかいう名前の男だ。

                        

「ひどい話だぜ」

「許せんぜ、わしが取り返してきちゃる」

「そのついでに、そいつらの鼻も殴ってきちゃる、こりゃ戦争だでぇ」。

奥平はここ一番の「仁義なき戦い」の菅原文太をぶっている。

      

         

 「よし、行くか」と武雄が立ち上がったとき、戸口に立ってる北別府に気づき、うわ、と小さな声をあげた。

            

 北別府は武雄を静かに見つめていた。

            

 武雄は恐る恐るとたずねた。

             

「あの、誰ですか?」

          

「あー便所掃除の人じゃ、便所掃除の人ー」、奥平が気づいた。

              

 北別府義一は存在感の薄い男でもあった。

              

「北別府、201号室の北別府っ」

         

【つづく】

令和2年6月7日