「尚太郎、どうだ、自分の部屋を持った気持ちは?」
振り返ると笑顔の武雄が引越しを終えた尚太郎を見つめていた。隣には宿なしの尚太郎を一年間もの期間、自分の部屋に住まわせてくれた奥平がいた。
感謝の言葉が足りないほどお世話になった奥平だ。
「おっくん、ありがとうございました。僕、今日から自立します、おっくんにはたくさんのお世話になって、そして色々なことを教えてもらいました、おっくんとの生活は…(?)おっくん? 泣いてるの?」
奥平はヒックヒックと泣き出すと共同洗面所へと走りバシャバシャと顔を洗いはじめた。
「寂しいんだよ、尚太郎との別れが」、武雄が言った。
「俺もです」
「おっくん、ずっと我慢してたからな、本当は尚太郎を抱きしめたいのにずっと、プラトニックを貫いたんだ」
「え…? どういうことですか?」
「ン? 尚太郎は知らなかったんだっけ? おっくん、コレだから」。
右手を口元にかざし、奥平はアブノーマルだと教えた。
尚太郎は部屋を飛び出し、洗面所でバシャバシャと顔を洗ってる奥平の背中を廊下から見つめた…。バシャバシャバシャバシャ、水音に混じってオンオンと泣いてる声が聞こえてきた。

知らないよ、おっくん、そうだったの…?
オンオンと泣きながら顔をバシャバシャと洗っていた奥平が片思いを振り切るように窓の外に叫んだ。
「わしゃ耐えたぞ、耐えたんじゃー。すっきりしたー。修行したぞー」

令和2年6月10日