涼風は誰かと喋りたくて悶々としていた。
あの頃の自分を支えてくれた人たちの話を久しぶりにしたことで、熱くガムシャラに生きてた二十代を思い出し、誰かに聞いてほしくて仕方がないほど身体が火照っていた。
時計を見ると午前1時32分。大丈夫かな? 大丈夫よ、まだまだ起きてる時間よ、涼風は自分に言い聞かせながら誰に電話をしようかな〜と考え、ひとりの共演者の顔を思い浮かべた。アクア九条、あのコとはプライベートでも気が合ってるし、OKオケケね。
「そうよ、あの人なら話を聞いてくれるわ」
四回目の呼び出し音の切れ際に不機嫌な声のアクア九条が電話に出た。
「なに?」
「あのね、私の二十代の青春の話を聞いてほしいのよ」
「バカ、何時だと思ってんのよ、寝不足にさせる気なの」、
ブチっと電話を切られた。
フン、つき合いの悪いオカマね。アイツは次の私の主役舞台には入れてあげないリスト一号ね、とボヤいた涼風は次に同じく共演者のオカダ三太に電話をした。
彼とは過去に幾度となく舞台を踏んでいて、とある商業舞台の地方公演のときは同じ楽屋で何十日間も過ごした仲だ。
そうだそうだ、こんなことがあったわ、私のお客さんがご当地お菓子の差入れをしてくれて、それを楽しみに私がトイレに行ってる間にあの男は勝手に封を開けて勝手に食べ、そして床に食べ散らかしたお菓子カスを私が掃除して、非常識でがさつな男だけど私と彼のことをいいコンビという人もいるし、彼ならきっと聞いてくれるはず。
そんなことを呟きながら涼風は楽しそうに呼び出し音を待った。
「オイ、常識を考えろよ。明日本番なんだぞ、寝かせろよタコッ」、電話を叩き切られた。
なにさ、常識がないのはあんたじゃないのさ。オカダ三太も自分の主役舞台リストから外した。
この後も次々と玉砕した。
なにさ、なにさ、なにさコイツら。涼風は意地になっていた。
そんな中「はい、聞きたいです、お願いします」と言ったのはクソ真面目が代名詞の城戸才蔵だった。時間は朝の四時を回っていた。
涼風はこのコは私の舞台に呼んであげよう〜と思った。
令和2年6月14日