「シャブでもやってんじゃないですか?」
「え?」
「やってますって、あの人」
マチネとソワレの休憩時間に共演者のアロハ・オギクボが涼風の元気の源の種をそう囁いた。
「マジかよ?」、才蔵は喉をゴクリと鳴らしながら聞き返した。
「だって異常じゃないですか、あの人のパワー。稽古の時も、毎日一番乗りでやってきて、夜はぼくら若手の居残り稽古にもずーっとつき合うし、いつ寝てんだよって感じで、やってますよゼッタイに」、アロハは力強く言い切った。

杉並区荻窪に住みながらハワイ永住に憧れた男はモデルから役者の世界に飛びこんだ今年二十七になる陽気な男で誰からも愛されている。一見チャラく見られる風貌とは裏腹に目上の人間を敬い、他人の悪口陰口を言わない男が、涼風に対してそんなことを思っていたということに才蔵は動揺した。
言われれば辻褄が合うことも多い。例えば、昨夜の意味不明の電話も覚醒剤の影響と言われれば可能性のある行動だった。それが真実ならば、それは歴とした犯罪である。
「アロハ、どうしたらいいと思う?」、才蔵が聞いた。
「どうしたらって?」
「だってさーヤバイだろ、それって。そんなことをやってる人を見て見ぬふりすることはできないだろ。アロハは見過ごす気なのか?」
才蔵は非難をするようにアロハを見つめた。
「俺は言えません、才蔵さんが注意してあげればいいと思います。あんなものに頼るのはよしてくださいって。才蔵さんの言葉だったら耳を傾けてくれると思いますし」
「どうして俺の言葉だと…?」
アロハは思わず苦笑しながら
「だって、涼風さん、才蔵さんのことを愛してるじゃないですかー。見ればわかりますもん」、と言った。
「え? 俺、愛されてるの!!」

令和2年6月17日