今夜、舞台がハネたあとを尾行をしてシャブの売買の現場を押さえるべきか、いや待て、この日にその取引きがあるという確証はないのだ。それならば終演後に飲みに誘ってそれとなく探る方がいいのではないだろうか…俺のことを愛してるということは、おそらく誘いにはのってくるはずだ。
才蔵は思った。
これは潜入捜査だ。父親からのDNAが疼く。
そのとき不意に肩をトントンと叩かれた。
振り返ると鳳ランランが立っていた。
鳳ランランは「伊賀の花嫁」シリーズを涼風と共に支えてる役者の一人で涼風に負けず劣らず全身全霊でこの舞台を楽しんでいる。酒が好きな男ゆえ、稽古が終わるといつも誰かかれか後輩を連れて飲み歩くことで後輩たちからの信頼度が厚い男だった。今日の終演後の酒の誘いかと思った才蔵に「才蔵、ちょっといいか?」、とランランは声を潜めながら外に出ようと目で合図をした。

楽屋外の廊下を出て階段を降りたところに、ちょっとしたスペースがあり、そこに人がいないことを確かめるとランランは立ち止まり才蔵に言った。
「おまえ、どうしたんだよ?」
「はい? なにがでしょうか?」
「涼風さんのなにを調べようとしてんだ?」
「…」
「黙ってんじゃねえよ、答えろよ」。ランランの目が大きくギロリと開き、後輩を怖気づかせるには充分すぎるほどの凄みをみせた。

「ど、どうして僕が涼風さんを調べようと思ってると思うんですか? 僕は別に…」
「鏡越しに涼風さんを睨み見てる才蔵の目、なんて怖い目をしてんだよ、オイ答えろよ」
必死に詰め寄るランランを見ながら才蔵は思った。
あ…この人もシャブ仲間なのか?
令和2年6月19日