奈緒美に続いてサチ子とよしえが「やしろ荘」を去ったときは寂しかったが、その穴を埋めてくれたのは浩輔と慎一の二人だった。
二人が入居してからのアパートには野太い笑い声と馬鹿笑いに興じる男たちの笑い声が常に交錯した。共同スペースは北別府が仕事で出て行くとすぐに汚れ、帰宅後の北別府が「みんなの場所なんだから掃除しろよー」と怒鳴り散らした。
尚太郎は慎一や芸能ごとを夢見てる浩輔の存在が楽しかった。特に同い年の慎一とは馬があった。夢を語る慎一の言葉が好きだったのかもしれない。武雄や奥平や北別府には言えないことも慎一には相談ができた。
それは慎一もおなじだった。尚太郎がバイトのない日には自分の大学に連れて行き一緒に学食で食事をしたり、「かまわんよ、誰がおってもわからんけん」と授業にも出席させた。
尚太郎には授業の内容はチンプンカンプンだったが、大学生という空気に触れたことで、これが大学生か、これがキャンパスか…これが女子大生か…と興奮をした。
ある日、「やしろ荘」に突然サチ子とよしえが遊びに来たことがあった。
「私たちがいなくなって寂しがっていないかなーと思ってね」と鍋の食材と一緒に階段をあがってきて、その夜は初対面となった新旧の住人が楽しく鍋をつつき笑いあった。
令和2年7月6日