のぼりはじめた太陽が東京の街により一層の輝きをもたらせ、眩しい光が、今日も頑張れよと街を照らしはじめた。
だが、そのあたたかな光はビルの屋上に佇んでる尚太郎には無縁の光なのだ。
あの日以来、アパートに居たくないと考えた尚太郎は、夜間のこのバイトを二週間前からはじめた。朝七時に交代警備員たちとの伝達を行い、あとは帰るだけだ。ロッカー室で時間をかけてゆっくりと私服に着替え、ビルを出てもゆっくりと歩き朝食を目指す。コンビニの弁当の場合は公園で、贅沢をしたいときは牛丼屋に入った。ゆっくりゆっくりと午前の時間をつぶした。理由はこのまま部屋に戻ると武雄たちと会ってしまうからである。時間をつぶして、自分の部屋に戻るのは昼前後と決めていた。
さてと、今日はどうしようかと覗いた財布の中に千円札が二枚と小銭が見えたので、この日は贅沢をしようと決め、牛丼屋へと向かった。燃えるような夢を失った今の尚太郎には睡眠と食事がなによりの楽しみの時間となり、並にするか大盛りにするかを考えるだけで足取りが軽くなった。
そのときフト、あの言葉が聞こえた。耳の奥にこびりついたあの言葉が渦を巻くように襲ってきた。
「頭だけで夢語っとったって、なにもはじまらんのじゃぞ」
「尚太郎、おまえはどがいな努力したんぞな?」
あの日、慎一の発したひと言。
やったんだ、と吠えた尚太郎だったが、本当にそうだったのだろうか…。
牛丼屋の店前で尚太郎の足は止まり、「くそー」と呟き贅沢をする気持ちが失せた。
令和2年7月12日