74.雨のち晴れ 11話

 高円寺北口改札を出て、見慣れた景色となった商店街を歩きながら、一日も早くあのアパートを出たいと思っていた。不動産屋の窓ガラスに貼りついてる物件情報を眺めることが癖になっているが、それは夢の話にすぎないと分かっている。今の「やしろ荘」は奈緒美と大家さんの信頼があったので後釜入居できたが、新たな場所に引越しをするとなると保証人が必要なのだ。家出をしてきた尚太郎には、そのような人はいない。

 自分自身の今置かれている環境が恨めしく、そして親からの仕送りや時々のバイトで得た金で優雅に生活を満喫してる大学生の慎一たちが憎らしくて仕方がなかった。

 腐った気持ちで「やしろ荘」の階段を上ろうとした尚太郎は二階の廊下に人の存在を感じてハッとなった。くそ、武雄さんだな、大学にも行かずにゴロゴロとしやがって…などと思ったとき、懐かしい声が階段上から聞こえてきた。

「尚太郎ー元気だった?」

見上げると、そこに奈緒美がいた。

【つづく】

令和2年7月13日