道の往来で言い争いをしていた涼風とアクアの姿は見えなくなっていた。二人はそれぞれのタクシーに乗ってその場から消えたようだ。
二人がいなくなった道端のガードレールにもたれかかるように弱々しい姿で立ってるガッキーに、横断歩道を渡ってきた才蔵とアロハが「どうしたのガッキー?」と心配そうに声をかけた。二人の顔を見たガッキーの瞳に、じんわりと涙が浮かんだ。
三人はカラオケボックスの中で顔を見合わせてる。
「ひゃくって、なんだよ?」。才蔵が不思議そうに聞いた。
「100で終わらせるって言ったんです…」
今にも泣き出しそうな声で、ガッキーは力なく答えた。
才蔵とアロハは、要領の得ないその言葉に「?」と顔を見合わせる。
「いやいや、さっぱり意味がわからないです。ガッキーさん、話が飛びすぎです。オレみたいなバカにも分かるように順を追って教えてください」
「オレにも、頼む」才蔵も懇願した。
「ごめんなさい、そうですよね…。オレ、あまりにもショックすぎて、ハイ説明をします」
ガッキーは才蔵とアロハに小さく頭を下げると、盗み聞きの中身を話しはじめた。
「あの二人、最初はチケットの話をしていたんですけど、そのうちに話がアッチコッチに飛び散らかして、お互いのプライベートの悪口になって、オレとしてはえぐい情報を仕入れたぞーと思ってたら、突然、涼風さんが『うるさいわねーそんな話はどーだっていいのよ、ホントはね、この話はさっきで終わりにするはずだったのよ』って言いだしたんです」
令和2年8月3日