99.雨のち晴れ 36話

 カラオケボックスの中でアロハに睨まれた蛙状態の才蔵とガッキーは「ンー最後に知りたいことかー」と唸っていた。

その二人を眺めていたアロハは大きな溜息を吐きながら「先輩たちって本気でバカなんですね。最後に知りたいことと言ったら一個しかないでしょう〜三四郎さんですよ」と言った。

             

         

「三四郎?三四郎のなにを知りたいんだよ」

          

「あの人、謎だらけですよ。家にテレビがないんですよー仙人ですか?この舞台でオレは涼風婆さーんにものすごーく気をつかって生きてるのに三四郎さんはおだやかーに、上手に接してあの婆さんを立たせてて、あれは僧侶の域ですよ。普通ならストレスで胃が痛くなったり、酒を飲んで鬱憤を晴らしたりするけど、あの人酒を飲まないし、どうやって精神を保ってるのか知りたくないですか?どんなプライベートか知りたくないですか?」

           

「なるほど、知りてえな、ウン知りたいよ」才蔵の瞳が輝きはじめる。

           

「え?アロハはその答えを持っていたのにオレたちに質問を投げかけてたの?」

           

「そりゃあそうですよ。段取りとしては『振り』は必要ですし。で、お二人が色々と考えて、最後にこの答えが出たときに『なるほどー』ってなったでしょう(笑)」

          

「おまえはオレたちのことをバカだ、バカだって言ってたけど、おまえの『振り』、日にち跨いでるからね、おまえがバカだよ」温厚なガッキーが怒鳴った。

            

「今は揉めてる場合じゃない。オレたちには時間も文字もないんだ。早速三四郎の身辺調査だ。オレは今、お父しゃんのDNAが疼いてる、張り込みに行くぞ」

          

「これからですか? つか三四郎さんがどこに住んでいるのか知ってるんですか?」アロハは慌てた。

        

「オイオイオイ、オレを誰だと思ってんだい? 情報屋ガッキーだぜ」

           

          

 善は急げと、その勢いで扉を開けた才蔵が「ヒッ」と息を飲み、扉を閉めたので「どうしたんですか?」とアロハが聞いた。

          

              

「三四郎がいた・・・」

             

「え?」

              

「便所から出てきて隣の部屋に入っていった」

        

「へえ〜三四郎さんカラオケとかに来るんだ、誰と一緒なのかな?早速プライベート一号だ」ガッキーは笑った。

          

 三人は忍び足で部屋を出て、隣室扉の小さな窓から室内を覗き見た。テーブルにはコカコーラの空きグラスが置かれ、酒類のグラスは見えない。ソファーには三四郎の荷物だけが見えた。ひとり?なるほど…真面目な三四郎のことだから台詞の練習かラストに踊るダンスの練習をしているのだと三人は思った。だが三四郎の姿が見えないので、三人は首をグッと捻りながら扉の小さな窓から室内奥を見ると、大きな画面に向かってひとりカラオケをシャウトしてる三四郎がいた。シャウトシャウトの三四郎だ。ストレスを発散するかのようにブルーハーツを歌っている。

            

           

           

【つづく】

令和2年8月7日