1.プロローグ

楽しい 楽しい時間だった。みんなと 笑って踊った。お客さんも笑った、一緒に踊った。『伊賀の花嫁』は年の初めに行うお祭りのような舞台。この日、初日を終えた。

「舞台こそ、私の生きる空間」。

                    

化粧前鏡に映ったケバケバしい化粧の自分に嬉しそうに囁いた。だが十日後に千秋楽を迎えると、この祭りが終わる。そのことを思うと泣きたくなるほど寂しくなった。

                    

「泣いちゃダメよ」

      

涼風せいらが鏡の中の不細工な自分に、そう囁いた時、携帯電話が鳴った。観劇後、いつも辛辣な感想を伝えてくる友人は、こう言った。

「涼風せいらの物語が観たい。番外編をやってよ」

                               

電話を切った涼風せいらは興奮をしていた。私の物語?つまり私が主役?そんなことしていいの? だってこの物語の主人公は伊賀三四郎で…

私が主役?

          

や…やりてえー。 

やりてえよー。

やりてーってばー。

【つづく】

令和2年5月1日