一周忌の法要を終えたら父に自分の正直な気持ちを話そうと決めていた。
あの日、母親に答えられなかった答えが今なら言える。
役者をやりたいと。
だが言えなかった。言える空気ではなかった。
法要の席で叔父たちが尚太郎を「三代目」「頼むぞ三代目」「オヤジを越すんだぞ」と冷やかしたとき、父親が嬉しそうに言った言葉に悪寒が走った。
「ハハハ、ああ、がっちりとしごいてやるさ」。
無理だ、無理だよ…。
逃げるしかない。
親不孝? そうだよこれは親不孝だよ。関係ないよ、オレは親の期待を裏切るんだ…。お母さんごめんね。
二度と生まれ故郷には帰ってこられない。
弟の修二、可愛い妹の絵里子、ごめんな、ごめんな。
車窓は軽井沢駅を過ぎて横川駅に向かっていた。
横川の釜飯食べたいなー。
贅沢するお金は持っていなかった。
こうして尾上尚太郎の青春がはじまった。
彼が涼風せいらママとして存在するのは、これからの物語である。
令和2年5月12日