13.さよなら父さん 10話

上野駅に着いたのは朝のラッシュ時だった。

改札を抜けて山手線のホームを目指した。

                         

駅の構内では誰もが階段を早歩きで登り、戦場に向かう兵士のように殺気だち、もう無理だろと思われるパンパンの満員電車に人々は体を滑りこませた。

駅員がその体をギューギューと押し込み扉が閉まると、さあ行ってらっしゃいとばかりに電車は走り去る。そしてすぐさまやってきた電車でも同じ光景が繰り返された。

              

「都会だ…」

                   

尚太郎は圧倒されていた。

                           

 山手線のホームで呆然と佇んでる尚太郎に通勤客と通学生たちが次々とぶつかってきた。ぶつかっても誰も謝ることはしない。そのクールさにも尚太郎は都会を感じた。

                          

 目的地は武雄がいる高円寺だ。

 東京で大学生活を楽しんでる武雄が頼りだった。

 高円寺に行くには新宿で赤い電車の中央線に乗り換えなければならないのだが、上野から新宿に向かうには山手線の「 外回り」と「内回り」のどっちに乗ったらいいんだ? ええい、どうにかなるだろうと外回りの山手線に飛び乗った。

                         

 満員電車だった。

                         

 都会だ、これは都会だ。

 気分はポッポーだ。

【つづく】

令和2年5月13日