14.さよなら父さん 11話

 武雄とは何度か文通を交わしていた。

                         

その文面にはいつも、

                

東京はいいぞ、東京は楽しい

尚太郎おまえも東京に出てこい

大学でも専門でもなんだっていいんだ

家を継ぐのはそこを卒業してからでも遅くない

青春は一度きりだ

                 

と誘惑の文字が並んでいた。

                  

 大学生となった武雄が夏休みに帰省したとき、劇的に洗練された都会人となっていて、語尾の端々に「じゃん」とか「じゃない」「だぜ〜」といった東京人ならではの言葉を恥ずかしげもなく使う姿に尚太郎は衝撃を受けた。

                      

武雄:石倉良信

                             

 上田にいた頃はどことなく野暮たかった男が四ヶ月程度の東京生活でここまで変わるのか…。

東京おそるべしだ。

武雄さんはこの先の一年二年でどこまで変わるのだろうか…。

武雄の姿が眩しかった。

                            

 高円寺の改札を抜けるとロータリーに交番があったので、武雄の住んでる住所を見せ、教えてもらった。

商店街を抜けた二本目の脇道を入ったところに「やしろ荘」はあった。

武雄からの手紙には「やしろコーポ」と書いてあったが

本当の名前は「やしろ荘」だと知った。

                          

尚太郎は建物を見上げながら胸を躍らせた。

                        

ここからオレの一度きりの青春がはじまるんだ。

              

【つづく】

令和2年5月14日