42.明日はそこにあるはず 11話

 「修行」。

 この二つの文字が頭から離れなかった。

 大阪に旅立った奈緒美と奥平が発した二文字が尚太郎の脳内を駆け回っている。新居の部屋に大の字に寝転がり天井を見つめて考えていた。 

 奈緒美の最後のメッセージが気になっていた。

 一年前、父親に吠えた言葉を思い出していた。

 俺はこの一年間、なにをやっていたんだろ…。東京の街に慣れ、生活をするためにバイトに明け暮れ、武雄さんたちと一緒になって笑いあって楽しく過ごしていただけだ…武雄さんたちは学生で、学生が終われば就職があって、俺にはそんなものはなく、なにをしていたんだ…なにをやりたかったんだよ…。自由を満喫して生きてると思っていた奈緒美さんは自分の夢のために東京を去り、サチ子さんも目的の仕事場を掴み取った。

 俺はなにをしていたんだ…バカだ。

 再び、奈緒美の言葉が聞こえた。

 「キミはなにをしに東京に来たんだっけ?」

 「俺は…」

 「俺は…役者になるために…」

 頬を涙が伝った。情けない自分に泣けてきた。

 俺の明日が見えない…。

【つづく】

令和2年6月11日