43.明日はそこにあるはず 12話

 その手の情報が載ってるオーディション雑誌があると教えてくれたのは困ったときの北別府である。

                 

 尚太郎は本屋に走り、その雑誌、月刊「De⭐︎View」をパラパラとめくり見たとき、衝撃が走った。夢のような雑誌だった。数えきれないほどの芸能事務所の名前がズラリと並び、ほとんどの頁で数多の芸能事務所が新人役者を募集しているのだ。これで役者になれると思った。どこかに引っかかるだろうと思った尚太郎だったが最後の頁に付帯してる応募用紙を見たときに「あ…」と首をうな垂れてしまった。

             

 応募用紙には保証人の名前と住所、電話番号を記する欄があり、家出をしてきた尚太郎には、そこの欄を埋めてくれる人はいないのだ。

         

 部屋に戻っても落ちこんだ。

           

 期待が広がった分だけ虚しさがあとから押し寄せてきた。

                

 「そうか…保証人か…こればっかりはな…」と武雄は嘆き、

   

「芸能界ちゅところは、そがいな細かいところまでチェックするんじゃろうか? わしゃぶち適当じゃ思うぜ、嘘を書いてもバレん思うけどな」。奥平はもっともらしいことを言って励ましてくれた、そのとき、よしえが「あっ」と素っ頓狂な声をあげてニタリと笑った。

            

「保証人になってくれる人、いるじゃん」

「そがいな貴重な人、どこにおるんじゃ?」

「あーいたー」。よしえの意図を察したサチ子が楽しそうに笑い、二人は声を合わせてこう言った。

 「201号室、困った時の〜北別府ぅぅぅー」

         

             

 北別府は慌てた。

「な、な、何を言ってるんだよ、そんなの偽証だろ、犯罪だよ、ダメだぞ、そんなこと、ダメだぞ」

            

 武雄たちとの話し合いの末、芸能事務所ではなく、まずは養成所で基礎を習ったほうがいいとなり、月刊「De☆︎View」に載っていた三原じゅん子の顔一面が広告になっている東京宝映テレビの養成所に申し込むこととなった。

              

 さあー保証人だ。

          

 武雄、奥平、サチ子、よしえ、そして尚太郎の五人から応募用紙をつきつけられて、必死に抵抗をしていた北別府だったが最終的には保証人の欄に「北別府義一。関係 叔父」と偽りのサインをした。住まいは「やしろマンション」、つい見栄をはった。マンション住まいなのに電話番号がないのはおかしいだろーとなり一階に備え付けのピンクの公衆電話の番号を書いた。

                

                 

 尚太郎の明日への扉が今、開こうとしていた。

               

【つづく】

令和2年6月13日