57.明日はそこにあるはず 26話

「才蔵、なにをしてるんだ」、と声を荒げたのはランランだった。

「それは涼風さんの小道具だ、返すんだ」

「そうよ、返して、ね、返してよ」

 両手を合わせて懇願する涼風を見つめていた才蔵は、覚悟を決めた。

「この中になにが入ってるんですか?」

 涼風の顔が、は、と強張った。

 ランランが間髪入れずに怒鳴った。

「ばかやろ、そんなことおまえに関係ねえだろ」

「関係なくはない」

 鬼気迫る才蔵の言葉に一同が何ごとかと才蔵を見つめ、ランランは言葉を継げなくなった。

「涼風さん、俺は不思議だったんです、あなたのパワーはどこからきてるのかって。凄いよ、ハンパないよ、異常だよって、でもその原因がわかったんです、クスリだ、ヤクブツを使って、元気になってて、そんなんでいいんですか!」

 ヤクブツという言葉に周りの者たちがザワッとなった。

 涼風の表情がヌルっと崩れ落ちていくのがわかった。

「だって仕方がないじゃない、それがないと私、ダメなんだもん、お願い、返して」。

涼風の頬に涙が伝った。

 認めた…。

この人、今、認めた…。

 涙を浮かべて許しを乞うてる…。

 ランランが優しく声をかけた。

「才蔵、わかってやってくれ。涼風さん…そのクスリがなきゃダメなんだよ、な」

「ふざけないでくださいよ! 俺はそんなことは許さない、どんな理由があっても許しません、涼風さん情けないですよ、なんでこんなものに頼って生きてるんですか」

 腑に落ちない言い訳を聞かされた才蔵は悲しくなり、そして声を荒げた。

「ランランさん、あなたもやってるんだろ」

「え…?」

 突然の詰問にランランは戸惑った。

「ま、待ってくれよ、俺はそんなものに手はだしてないって、オイ、ちょっと、信じてくれよ」

 才蔵はしらを切ろうとするランランの姿が憎かった。

「あなたたちのやってることは不正だ」

【つづく】

令和2 年6月26日