怒りの言葉と共に才蔵は真っ赤な巾着袋の袋口の紐を解き、ガッと袋口を開けると躊躇することなく中のものを通路にぶちまけた。銀色に包まれた大量の固形物がコツコツコツと音を立てながら床に散らばった。それは大量の『ボラギノールA坐剤』だった…。
「え…」
才蔵は大量の座薬を見つめた。

こりゃ、どう見たっちゃ座薬や…、いや違う、そう見せかけとーだけや、銀色のカプセルん中に仕込んどーちゅうわけか、巧妙な手口や、ご苦労さんばい、と床に転がったひとつの銀色のカプセルを手にして開封した。うお! 気持ちわるか、本物やなかか! これも、こっちも本物やなかか、どげなことや?
才蔵は慌てて巾着袋の中を確認したが、なにも入っていなかった。
涼風は「やめてぇぇぇぇ」と泣いている。
ランランが坐剤をひとつひとつ拾い集めながら言葉を残した。
「涼風さん、激しく痛いんだってよ、ケツが…。もう一個や二個じゃ効かないレベルだ、一度に四個挿れないとムリなんだってよ…。だけど、このことは共演者のみんなには言わないでくれって、なぜかわかるか? おまえたちに心配させたくないからだっ」

「四個も挿れてんのに、それでも本番中に激痛が走るときはセットの裏でこっそりと挿してんだ…(涙)。だから小道具の巾着にボラを常備してんだよ」
「恥ずかしいから、それ以上言わないでおくれ」
涼風は悲しそうに顔を下に向けた。
「四個も…。あんた、それはダメよ…」
アクア九条が床に散らばった座薬を拾い集めながら、涼風に優しく話しかけた。
「説明書に書いてあるじゃない。一回につき一個から二個って…。四個はダメ、これはステロイドなのよ、おバカ」、涙を浮かべながら優しく諭した。
「だって、痛くて痛くて…」
「四個はダメっ」
「わかってるの、わかってるんだけど、そうしないとこの舞台、お努められないんだもん」
「だからってムチャよ」
「知られたくなかったの…ウウウ」
「四は幸せのヨンでもあるけど死んじゃうのシであるの。四個はダメ。みんなも聞いて、いつか痔になってボラちゃんのお世話になるときがあったとしても四個はだめ、いい?わかったんだったら、ハイみんなで一緒にー」
なんの理屈かさっぱりわからなかったが全員が唱和した。
「四個はダメー」
「もっと笑顔で〜 サンハイ」

「ほら才蔵くんも一緒にー」、とアクア九条が誘った。
こうして才蔵の「俺の空」安田一平ごっこは終わった。
この日の舞台はみんなが燃えた。
涼風せいらの頑張りに応えようと誰もが熱くなった。

令和2年6月27日