フトした拍子で話題が尚太郎へと移った。
「で、尚太郎くんはその後、どうなの? 役者への夢、頑張ってるの?」、とサチ子が聞いてきた。
「え? まあ、なんとか」
「いやー聞くも涙、話すのも涙だぜ。小学生と一緒に、なんだっけ? ウイロン売りだっけ? 一生懸命にやらされたんだよなーハハハ」。武雄が豪快に笑った。
「外郎売りです」
「ウイロー? なんなの、それ?」とサチ子。
「演劇の基本というか、滑舌の稽古みたいなもんです」
「尚太郎、サチ子さんたちに聞かせちゃれよ。いや、これが面白いんじゃ、なにを言いよるのかさっぱりわからんのじゃけど、なにかを売って歩きよるんじゃ、ほら、尚太郎、やっちゃれよ」、と奥平が面白そうに尚太郎をあおった。
「いや、いいですよ、恥ずかしいです、フフ」
「なにを照れとるんだ、あの頃、いっつもわしらに見せてくれたじゃろ、今さら照れるな照れるのぉ〜ハハ」
「そうですよ、僕は明日は仕事があるので眠いと言ってるのに、困ったときの北別府さんでしょーって叩き起して『拙者親方と申すはーお立合の中にご存知の方もござりましょうがーお江戸を立って二十里上方ー相州小田原ー一色町をー』、フフフ、覚えちゃいましたよ」、と北別府が調子にのってやってみせた。
令和2年7月8日