慎一が部屋に戻った尚太郎を追いかけて
「なにを怒ってんぞな?」、と聞いた。
「出てけよ」
「あんな態度はみんなに失礼だ、戻って謝ろう、な、そうしよう」
「・・・」。尚太郎は答えなかった。
「な、そなぁにイヤじゃったのかよ、その養成所、ウイロー売り」
「外郎売だ」
「なにが違うんぞな? 一緒じゃろが」
「全然違うよ」
「どう違うんぞな?」
「うるさいよ、いいんだよ、そんな話どーだっていいんだ、出て行けよ、ひとりにさせてくれよ」
苛立ちの尚太郎は床に置いてあった読みかけの少年ジャンプを手に取ると壁に投げた。
小さく息を吐いた慎一は感情を荒げることなく、ゆっくりとその言葉を尚太郎にぶつけた。
「尚太郎、おまえはどがいな努力したんぞな?」
令和2年7月10日