慎一は少年ジャンプを拾うと、ほとんどが漫画本で溢れている小さな本棚に、それを立て掛けながら言葉を続けた。
「役者になりたいっていうわりには勉強してないよな、本読んでないもんな、頭だけで夢語っとったって、なにもはじまらんのじゃぞ」
「面倒くさいんだよーおめえはー」
尚太郎は吠えた。
「俺はやったんだよ、やったんだ、やったんだよ!東京は魔物なんだよ、東京に出てきたばっかりの、なにも知らない奴が偉そうに言ってんじゃねえよ」
慎一はこれ以上の話し合いは無理だと思ったのか、フーンと言って立ち上がると戸口で振り向き-。
「やってないよ」、と言った。
「このやろー」
尚太郎が飛びかかった。
武雄の部屋から二人の様子をうかがい聞いていた奥平と北別府と浩輔が、わっと部屋を飛び出し、廊下で取っ組み合いとなった尚太郎と慎一の仲裁に入った。「よしなさいよバカ」、と叫ぶよしえの声は男たちの怒声にかき消されたが、それでも何度も叫んだ。そんな中、我関せずと部屋で酒を飲んでる武雄に気づいたサチ子が呆れたようにコップを取りあげた。
「なにやってるのよ、とめてきなさいよ」
「平気平気、今日は尚太郎の反抗期だ、ハハ」
令和2年7月11日