83.雨のち晴れ 20話

「やしろ荘」に着いたのは夜中の十一時を回っていた。

 一階の下駄箱から階段を見上げると武雄たちの笑い声が聞こえてくる。今夜もバカな話をして笑いあってる陽気な住人たちである。この何ヶ月の間で武雄の酒量は増えた。奥平の広島の実家の酒蔵を上手に活用してタダ酒を無尽蔵に飲むことを覚えてしまったようだ。日に日にダメになっていく典型的な大学生だ。

 下駄箱で躊躇している尚太郎の背中をコツン、コツンと指で押したのはサチ子とよしえである。

「謝るんでしょう、もう迷わないの」

「男なんだから、ここはロックだよ」

「ごめんなさい・・・」

「やしろ荘」の男たちは頭を下げて詫びた尚太郎を歓迎した。

殴り合った慎一は特に喜び、無駄に陽気な浩輔は意味もなく「バンザーイ」と叫び、北別府は「罰として明日は便所掃除だからね」と言い、「男じゃ、尚太郎、それでこそ男じゃ、わしゃあーそがいなわれがぶち好きじゃ、チューさせてくれ」と酔ったふりをして抱きつき、武雄はベロンベロンになりながらも「反抗期だーハンコウキー」と笑った。

 そのときだった。武雄の部屋の扉が乱暴に叩かれた。皆がドキンと振り返ると、目が血走った男が立っていた。危険な雰囲気を感じさせる男は一階に住んでる者だと名乗ると「おまえら、毎晩毎晩うるせえんだ、え?誰からしめて欲しいんだコラ」と低く唸った。

謎の住人:舘野 将平

              

 部屋に戻ると開けっ放しの窓に布団が干しっぱなしとなっていた。奈緒美が干してくれた布団を畳に敷いた尚太郎は倒れこむように横になった。

 この時間帯に眠るのは何日ぶりだろう、そういえば今日は徹夜だ…。そんなひとり言をこぼすと鼾をかいて深い眠りについた。

 夏の到来を予感させる湿り気を含んだ布団だったが、心がポカポカとあたたい夜となった。

【つづく】

令和2年7月22日