六本木交差点は地下鉄を目指す人で溢れていた。
「もう一軒行こうーよー」

ガッキーの誘い声虚しく、アーヤンたちは地下鉄日比谷線六本木駅へと消えていった。ガッキーが使う電車は千代田線で、ひとり取り残された格好となった。チッと腐る気持ちで乃木坂駅へと歩き出したとき、向こうから歩いてきたアロハと才蔵がガッキーに気づき嬉しそうに手を振ってきた。

三人は立ち話をした。
「才蔵とアロハの二人飲みなの?え?なになに?才蔵とアロハって、そんなに仲良しだったの?」
「ガッキー。聞いてよーねー聞いてー」才蔵は相当に酔っている。「オレ、今日さ、涼風さんを追いこんじゃったじゃん、シャブと思ったらボラギノールのやつ」
「うん、四個はダメなやつね」
「あれ、ネタ元こいつだから」、才蔵はアロハの首根っこに腕を回しながら「こいつ、オレにガセネタ掴ませて、そんでオレがその気になっちゃってさー」
「だから謝ったじゃないですか。そんで今夜、お詫びの気持ちで奢ったじゃないですかー」
「奢った?オイ、生ビール一杯だろが。あとは、なんでオレが払ってんだよー」
「そこは年上ですもん」
「このやろー本当におまえは可愛いなーこのやろーアーハハハ」。道の往来でじゃれ合いながら笑い合う才蔵とアロハにガッキーは言った。
「ね、もう一軒行かない?」
「は?行かないですよ、明日本番なんですよー無理ですよーガッキーさんの肝臓、どんだけ酒を欲しがってんですかー(笑)」
アハハハと笑っていたアロハの目が「!」となった。
「見てください、あそこ」
長い腕を伸ばしたアロハの指先。六本木通りを挟んだ向かい側の道で涼風とアクア九条が言い合いをしている姿が見える。

アロハは生唾を飲みこみながら唸るように呟いた。
「六本木のど真ん中でオカマが喧嘩してます」
令和2年7月31日