カラオケボックスの空間はガッキーの報告を終えてからの一時間ほどは、まるでお通夜のような時間となった。ガッキーと才蔵とアロハは溜息も底をついたのか押し黙ったまま、動くこともできずにいた。ドリンクを下げにやってきた店員が、その静けさに「大丈夫ですか?」と声をかけたが三人には言葉を返すほどの気力は残っていない。
店員が出て行くと、ようやく口を開いたのは才蔵だった。
「振り返れば楽しかったよな」
「・・・」。ガッキーとアロハがチラリと才蔵を見た。
「涼風せいらのOKオケケ…楽しかったよ。涼風さんが辞めるというんだから、これは仕方ないんだよ」
神妙に話終えた才蔵にアロハが苛立った。
「は?なに大人ぶってんですか?本気でそう思ってんですか?俺は全然納得してないんですけど。こんなんで終わったらフラストレーション溜まりまくりですよ。こんな終わり方でいいんですか、あのシャブばばあーの戯言にハイそうですかって、今までご苦労様でしたって、誰が納得するんですか?誰もいないですよっ」
アロハの声は滲む悔しさでかすかに震えていた。
「うるせえよ、俺にあたるなよ」才蔵が言い返す。
「あたりますよ。才蔵さん、知ってますか?この物語、今日、何話目か知ってますか?」
「知らねえーよ、そんなのいちいち数えてられるかよ」
「いいですか、今日97話。つまり、残り四つです」
「四つ? 四個はだめの四つか…」
「うるせえよ、そんなボケいらねえんだよ」
「なんなんだよ、その言い方。俺は先輩だぞ」
「才蔵さんに聞きます」
アロハの瞳が強く鋭く才蔵を捉える。
「才蔵さんが今一番知りたいことはなんですか?」
「今、一番知りたいこと?」
「はい、そうです」
アロハは強く強く才蔵を見つめた。
令和2年8月5日