97.雨のち晴れ 34話

 カラオケボックスの空間はガッキーの報告を終えてからの一時間ほどは、まるでお通夜のような時間となった。ガッキーと才蔵とアロハは溜息も底をついたのか押し黙ったまま、動くこともできずにいた。ドリンクを下げにやってきた店員が、その静けさに「大丈夫ですか?」と声をかけたが三人には言葉を返すほどの気力は残っていない。

         

          

 店員が出て行くと、ようやく口を開いたのは才蔵だった。

          

「振り返れば楽しかったよな」

          

「・・・」。ガッキーとアロハがチラリと才蔵を見た。

            

「涼風せいらのOKオケケ…楽しかったよ。涼風さんが辞めるというんだから、これは仕方ないんだよ」

          

 神妙に話終えた才蔵にアロハが苛立った。

             

「は?なに大人ぶってんですか?本気でそう思ってんですか?俺は全然納得してないんですけど。こんなんで終わったらフラストレーション溜まりまくりですよ。こんな終わり方でいいんですか、あのシャブばばあーの戯言にハイそうですかって、今までご苦労様でしたって、誰が納得するんですか?誰もいないですよっ」

          

          

 アロハの声は滲む悔しさでかすかに震えていた。

          

「うるせえよ、俺にあたるなよ」才蔵が言い返す。

「あたりますよ。才蔵さん、知ってますか?この物語、今日、何話目か知ってますか?」

「知らねえーよ、そんなのいちいち数えてられるかよ」

「いいですか、今日97話。つまり、残り四つです」

「四つ? 四個はだめの四つか…」

「うるせえよ、そんなボケいらねえんだよ」

「なんなんだよ、その言い方。俺は先輩だぞ」

「才蔵さんに聞きます」

 アロハの瞳が強く鋭く才蔵を捉える。

           

「才蔵さんが今一番知りたいことはなんですか?」

             

「今、一番知りたいこと?」

「はい、そうです」

 アロハは強く強く才蔵を見つめた。

               

            

   【つづく】

令和2年8月5日